新型コロナウイルス治療薬の違いについてご存知でしょうか?
今回は新型コロナウイルス治療薬の違いについて説明させていただきます。
(2020年6月現在の知見に基づいています。今後の医療の進歩等によっては、内容が変わることもありますのでご了承のほどお願いいたします。)
ウイルスの増殖過程について
新型コロナウイルス(COVID-19)はゲノムとして一本鎖プラス鎖RNAを持つ、コロナウイルスに属していると考えられています。そのため、COVID-19について理解するためにはウイルスの増殖過程を理解しておくことが必要です。
まずはウイルスの増殖過程について押さえておきましょう。
ウイルスの増殖過程は上記図のように、
①吸着→②侵入→➂脱殻→④複製→⑤放出
とたどっていきます。
①吸着、②侵入
ウイルスは自分だけの力では生きていけないため、ほかの細胞に寄生する必要があります。
そのためウイルスは正常な細胞に吸着し、侵入します。
➂脱殻
DNAやRNAなどの核酸は複製するためには、ウイルスの殻を破って正常細胞に侵入しなければなりません。
この過程を脱殻といいます。
④複製
脱殻によって正常細胞内に侵入したDNAやRNAなどの核酸は、正常細胞内の核に入り込み複製を行い核酸を合成します(正常細胞も増殖するために複製を行っていますが、これを乗っ取ってしまうイメージです)。
⑤放出
大量に増えた核酸をもとに、ウイルスが複製されます。複製後、ウイルスが正常細胞の外へ出ることを放出といいます。
新型コロナウイルス治療薬について
新型コロナウイルス治療薬で使用される薬剤は以下の通りです。
- アビガン
- ベクルリー
- オルベスコ
- ナファモスタット
これらの薬剤を先ほどの図に当てはめると以下の通りです。
ご覧の通り、さまざまな箇所で働いているんですね。
それでは、次はそれぞれに薬剤について深く掘り下げていきましょう。
アビガン
一般名:ファビピラビル
剤形:内服(簡易懸濁可能)
薬効:インフルエンザ治療薬
用法:1日目 1800mg/回×2回、2日目以降 600mg/回×2回、最長14日間投与
副作用:肝機能障害、尿酸値上昇
注意事項:妊婦に禁忌 。精液中への移行あり(投与終了後10日間まで避妊を徹底)。透析例では濃度の低下の報告もあり、他剤への変更を検討する。
アビガンに関しては、用法用量が通常の使用方法と違っているため注意が必要です。また、妊婦には禁忌であること、精液中への移行もあることから、性行為時には注意が必要です。錠剤が困難な方でも、簡易懸濁は可能なためその点は安心ですね。
ベクルリー
一般名:レムデシビル
剤形:注射
薬効:エボラ出血熱治療薬
用法:1日目 200mg/回×1回、2日目以降100㎎/回×1回、最長10日間投与
副作用:肝機能障害、腎機能障害、 投与時反応(低血圧、嘔気、 嘔吐、発汗、振戦など)
注意事項:重症例(ECMO、人工呼吸器管理)が対象。腎機能障害患者、肝機能障害患者に対しては注意事項の記載があり。
ベクルリーに関しては、重症例が対象となること、用法についても1日目は投与量が違うため注意が必要です。
薬剤師として+αで押さえておきたいことは、調製時は全量合わせが必要なためなため、希釈の生食(250)から投与量をあらかじめ抜いたうえで、ベクルリーを混注する必要があります。また、投与時間については30分~120分かけて投与が必要です。
ナファモスタット
作用機序:細胞内へのウイルスの侵入を阻害
一般名:ナファモスタット
剤形:注射
膵炎で使用されていましたが、こんな働きがあるとは知りませんでした。身近な薬にも違った作用があることを知ると、薬ってすごいなって思いますよね。
オルベスコ
作用機序:脱殻後の非構造タンパクを阻害
一般名:シクレソニド
剤形:吸入
薬効:喘息治療薬
注意事項:他の吸入ステロイド剤では抗ウイルス作用はない。気管内挿管中はスペーサーを用いる。吸入後は口腔内の清浄 を行う。
この薬も普段から使用されていた薬ですね。オルベスコにのみ脱殻後の非構造タンパクを阻害作用があって、ほかの吸入ステロイド剤には現時点では認められていないというのも驚きです。
アクテムラ
抗ウイルス薬以外でも、サイトカインストームが病態を悪化させることから、抗ヒト IL-6 受容体モノクローナル抗体トシリズマブ(アクテムラ)の有用性も報告されています。
使い分けは?
軽症・中等症例にはアビガンとオルベスコ併用、重症例にはベクルリーとアクテムラの併用で治療を行うことが多いです。
他の薬は?
抗HIV薬のカレトラ配合錠(プロテアーゼ阻害薬)は無投薬とのランダム化試験にて有効性に差がない事が報告されています。
まとめ
新型コロナウイルス治療薬の違いや副作用についておわかりいただけましたでしょうか?
新型コロナウイルス治療薬について理解を深める一歩となりましたら幸いです。